Undown 2001年 bice インタビュー

2020年4月18日

2001 bice Nectar undown アルバム インタビュー カジヒデキ 松本隆

bice interview   プチリゾートは彼女とともに。

取材: 鈴木大介

  真夏のクソ暑い日、炎天下を歩いてると、どうしても涼を求めたくなる。一瞬だけ、涼もうなんて思って、コンビニに入ってみても、一時的な逃げにしかならず、ならばというワケで喫茶店を探してみる。でも、ないんだよね、最近は特に。いわゆるファーストフード系か、ファミレスな感じしかない。それでいいじゃんって思うかもしれないけど、やっぱ落ち着かないものがあるじゃない? そこには訳知り顔のマスターもいないし。マニュアルに基づいた笑顔じゃ、よけい暑苦しい時ってあるじゃないですか。ならば、オレ、炎天下を汗まみれになって歩く方を迷わずセレクトします。日射病でもかまわないさぁ(笑)もともと夏なんてそんなもんでしょ? システィマティックな世の中になれば、なるほどやっぱり自然の姿を求めるってことなのかもしれないですね。よし、今年はエコな感じでいきますよ。エコロジー重視で。 

 というワケでbiceである。待ちに待ったという人も多いんじゃないだろうか。biceの奏でる音楽って、そのバックホーンにある、豊富な音楽体験に基づいて、綴られたメロディの心地よさっていうのがあるんじゃないかなと思うんだけど、長い間、温められてきただけあって、そんな魅力がじゅうぶん発揮されているのが、メチャクチャ嬉しい、楽曲が揃っている。松本隆を始めとして、ノーナリーヴス、カジヒデキなど豪華なコラボレイトのもと、やっと届けられた作品には、癒しなんていう言葉では片付けられないほどの、ポップミュージックへの愛情がたっぷり詰まった好盤として仕上がっているのだ。

  ▪▫▪  ▪▫▪  ▪▫▪

●やっとアルバム出ましたよね。 

bice: そうですね (笑) やっとじゃんって感じで。 

●今回の作品って、いろんな人が参加されてるじゃないですか。

bice: そうですね。色んな友達に参加してもらったというか。 

●松本(隆) さんもですか? "嵐が丘" っていう曲で参加されてますけど。 

bice: いや、違いますけど (笑) 素敵なおじさまで。最初、重いなって一瞬思ったんですよ。タイトル見た時にね。ちょっと、タイトル変えたいなとも思ったんですが、 実際歌入れの時に来てもらって、話してた時に、"フランケンシュタインと映画の "嵐が丘" の感じを足して2で割った" って言ってて。 

●すごく松本さんらしい歌詞だなあって思いますよ。 "嵐が丘" っていうタイトルとかもね。えーって思うじゃないですか、普通。そういうイヤな言葉をイヤじゃなくするところとか。 

bice: そう、そう。歌ってて、不憫じゃないとかっていうフレーズがあるんですよね。不憫とかって、演歌っぽいフレーズだったりするじゃないですか (笑) そういうことを言ったら、"不憫じゃない、の後に ? をつけたらいいんだよ。問題ないね" って言ってたから (笑) そこで色んな雑談もしたんですけど、50過ぎてね、こんなにもピュアに音楽のことを語れるっていうのがすごい印象的で。松本さんに逢えたのはすごく大きくて、私は音楽がすごく好きでここまでやってきたわけなんですけど、歌詞は後からついてきたというか。ま、うたものを作るのはすごく素敵な作業だなと、あらためてそこで思えたっていうのはありますね。 

●相性、すごく良くないですか? 

bice: そうですかね (笑) 最初、永井真理子さんの曲提供の仕事で松本さんが歌詞つけてくれて。その後、私が松本さんの歌詞に曲つけたりして。それが出会いだったんですけどね。すごく気に入ってくれたんで、"じゃあ、 お願いしてもいいですか? " っていう話になったんですよね。 

●そういうことがあったんですね。 

bice: はい。松本さんって、80年代の女っていうイメージでも歌詞は書け るじゃないですか? 強調したような。 そういうのじゃなくて、割とさっぱりしたのがいいっていう風には言いましたけどね。 

● "秘密の恋が試験官で沸騰している" とかね。あとは "アナタは彗星" とか。 そういう言い回しですね。 

bice: そうそう(笑) 20階建ての海沿いのマンションの最上階に松本さんの作業場があるらしくて。それで海を見てたら、稲妻が海に向かって落ち始めていたと。それで書き始めたらしいです。 

●20階の海沿いのマンション。住めないですよ (笑) どこの海なんですかね。 

bice: 最近は歌詞をそんなに書いてないというか。 

●らしいですね。 

bice: ホントに気に入った仕事しかしてないらしいんで、今回は気に入ってもらえてよかったなと。 

●なるほど。で、今回あらためて全体を聞いてみると、 リゾートな感じがするんですけど。 

bice: あー、そうですか。それは全然意識してなかったです。 

●小旅行っぽいっていうか。 

bice: たぶん、何度も聴けるようにサウンドは割とふんわり。メロディは露骨なんですけどね。ドメスティックなものというか、そういうのもあるんですけど。全体として、あんまり詰め込み過ぎず、やったんで。 

●いい意味で、ストレートなものになったんじゃないかなと。 

bice: え? ストレートっていうのは?  

●ちゃんと歌が前に出てるというか。ベタになったっていうことじゃないです。 

bice: うん。やっぱり自分としても、こんなに詰めてやったこともなかったし、ま、詰めたといっても、アレンジャーではないので、ところどころは甘さはあるんですけど、アルバムを作ろうというところから、アル バムに入る時にどういう位置にいるかっていうのも曲を選曲したというところはあったんで。まあ、流れ流れて、ちょっと曲は増えたりしてるんですけど(笑) 

●ヴォリュームありますよね。 

bice: うん(笑) 

●色んな人とやったっていうのが、ヴァラエティにつながってると思うんですけど。気が付いたら、これだけの人とやってたっていうことなんですかね。 

bice: そうそう。スタジオミュージシャンって言われる人とはあんまりやってないんで。家で打込みのだいたいのデモを作って生に差し替えていく作業っていうのをやってるんですけど、そこで人は必要なわけでして。そういうところをノーナリーヴスの奥田君と小松君が殆どやってくれたり、あと堀江さんと。カジ君は "ヤングアンドイノセンス" * のコーラスとかをやってくれたり。間奏の部分の。わかりにくいかもしれないですけど(笑)だってカジ君が女の子の声を研究してるとかいって、そういう声でやってくれたんで。 

●わからなかったです(笑) 

bice: (笑) またいっそうわかりにくくなったりしてるんですけど。 

●こんなに色んな人が参加してるとは驚きですよ。 

bice: そうですね。のんびりやってたんで、話の流れっていうのはあったんですけど、"じゃあ、やってみようか" っていう感じで。 

●でも、ようやくね。長いこと温めていたものがこうして形になって。 

bice: そうですよね (笑) 二カ月ぐらい前からちょこちょことアルバムのプロモーションが始まって、思い返すのにすごい大変だったんですけど。“前と言ってること、 違いませんか?” とか言われたりして(笑)

*原文ママ。"Young and so Innocent" のこと。

(Undown 2001年8月号 Vol. 46 掲載)


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