Conversation with Oh! Penelope
初めての対談
今回は、ニューアルバムのプロデューサー Oh! Penelope の渡辺善太郎氏と辻睦詞氏をお迎えしてお届けします。
―中島さんとoh! Penelopeの出会いを教えて下さい。
中島 8月に出したアルバム“HERE COME THE GiRLS” は、'60年代っぽいのを作ろうと思って、そのまんまの感じで全部作ったんですけど、次のアルバムを作りたいなっと思っている時に、今度はもうちょっと私のやりたいものがあって、それをちゃんと形にしてくれる人を探していたんです。いろんな人に聞いたりしてたんですが、たまたま音楽TVを見ていた時に、Oh! Penelopeが出ていて、話もおもしろかったし、すごく気の抜けた感じがいいナー(笑)っていうか、リラックスしてる感じが楽しくて、デレクターと一緒に頼みに行ったんです。
渡辺 デレクターの方から、おおまかにこういう感じでやりたいっていうのを手紙でもらいました。
辻 手紙なんかもろうたの知らんかった。
―最初に彼女を見た印象、CDを聴いた印象はどうでしたか?
渡辺 聴いた印象は、最初にCDを2枚もろうとったんだけど聴かずにいとって。
中島 それは良かったかもしれない(笑)。
渡辺 いきなりデモテープを聴いたんかな。それで、すばらしいなーと(笑)。最初は彼女のやりたいことっていうのも何となく分かって、自分なりに解釈はしたんですけど、そのわりに音とかいまひとつ確信的じゃない部分があっ たので、その辺のことはおいしいところを突くというか、言い方へんやけど、その辺は自信があったので出来るんじゃないかなーと思って引き受けたんですけど。でも、いざやってみると、最初来よったやつより、適当じゃないけどバリエーション多くなりすぎた気がする。
中島 それは良かったと思うんですけどね。
―彼女の仕事をしようと思った決定打は何ですか?
渡辺 単純に楽しめるんじゃないかと思って。そんな決定打はないか(笑)。
辻 そういうこと、まだやった事なかったしね。
渡辺 まぁなんちゅうか、あれこれすげー分かっとるやつだと、難しそうだし。あれこれ分かってないわけじゃないけどね君が(笑)。むちゃくちゃ出来るんじゃないかと。それが逆に楽しいだろうと…。
―具体的に作業に入って、ここがきつかったとか、これは苦労したとかはありますか?
渡辺 きつかったのは、やっぱアルバムかな。結局6曲入りになったけど、アルバム全部やるというのは初めてだったのでバランスが難しいというか。3曲ほどから始めて、それはパッパッパッと出来たんやけど、まぁ3曲ぐらいなら気合いの入り方がええ感じで入るから。でも残りは他でも仕事が忙しかったりしてキビシかったりはしたんやけど、そんなとき『6曲入りにしようと思うんですけど』って言われて、内心すごくラッキーと思って『そりゃ絶対その方がいいですよ』って言うてしもうた。今だから言えるんやけど。
中島 UKポップロックや'60、'70年代のリバイバル系の音をいろいろ聴いてて、実際どうやって形にしていいか分からないところがあったんですけど、 例えば『こういう曲のここがすごい好きなんだけどなー』っていうのをそのまま形にしてくれたというか。コーラスとかも自分だけじゃ形に出来ないところがたくさんあったんだけど、辻さんのおかげでそういうところのバリエーションも広がったし。ドラムも辻さんが叩かれているんですけど、初めて聴いたときに私の曲にぴったりだなと思って、一緒にやれて良かったと思いました。
―作業中におもしろいことがあったとか、こんなものが流行っていたとかはありますか?
渡辺 ジェネレーションギャップがあるから同じ話題はなかなか(笑)。
中島 そんなないじゃないですか(笑)。
辻 今どきの若い子の部類じゃないかな。
中島 そうかなー。
辻 そやけど、わいらも東京に出てきて6年やけど、彼女はわりと関東で生まれたわりにパッと見たときは田舎娘かなと(笑)あか抜けてないなと (笑)。あっ、こういうおぼこい若者もまだおるんやなと。
中島 いますよねー。でも、みんなそんなはじけまくってるわけじゃないんですから。
―今回のアルバムを聴かせてもらって、今までにないバッチリなグルーヴ感を持ってるなと思ったんですけど。
辻 だいたい1人のミュージシャンで、ギターなりベースなりドラムなりを指名してレコードを作ったら、やっぱりみんな上手だからかっちりしたものは出来ると思うんやけど、本当に彼女のやりたい'60年代のようなサイケポップというかガレージロックみたいなものだったら、わいみたいなへタクソな荒いドラムやったほうが、彼女のやりたい風には近づけたと思う。もし、それ以外のことをやりたかったら今としてはなかったけど。そういった意味で今回は、わりとバンドみたいに出来たかなと僕は思ってる。
中島 今回すごく良かったなと思うのが、いつもはたくさんの人やミュージシャンの人達が関わって、最後までやっちゃうっていうのが多かったんですよ。それはそれでいいんだけど、やっぱり一生懸命作ってきた側としては、ちょっと寂しいものがあったりして。そういうところで今回すごい少ないメンバーで出来たので、あったかい音が出来たんじゃないかと思います。
渡辺 きっと、“せーの”でまともなサウンドやっても彼女の歌入れるとしたらあんまり面白くねーってなっちゃうと思う。ちょっと変わってないと。音的にもやっぱり分かってるやつがいた方が、いわゆる通常のお仕事としてやってもらうと、あんまり面白くないんじゃないかな。
―今回のアルバムを作る中で気を付けたところはありますか?
渡辺 やっぱり曲作って詞作ったところから、それにどう対応するかっていうのだと思うけどね。それ以上突っ込んだ作業っていうのは難しい。こっちから何かを与えてとか、曲をある段階から始めてとか、それはそれで面白いけど、一応まだそういう風にはなってないから。
中島 してみたいなとは思いますね。
渡辺 してみたい? そしたら厳しいなるよ、ちょっと(笑)。
中島 すいません。
渡辺 でも、それは難しいと思うよ。やっぱり。
辻 彼女自身のキャラクターもあるし。
渡辺 俺は、辻が高校生の頃から付き合っとって、それでしかも同じような音楽が好きで10数年やってるからさ。
辻 14年。
中島 すごいですよね。それ。
渡辺 付き合いの長い短いはあんまり関係ないけど、なんせ動機ゆうかさ、動機がある意味バンドになってるからさ。そうやってやるんやったら、君も立派なミュージシャンやからある程度対等な関係を作っとったほうがええと思うんやけど。今回はわりかし彼女の作品をわいらが彼女の意思を聞かずに作りきってしまって、こうなりましたっていう感じだったので。
中島 でも始めに『こういうのが好きなんですー』っていうのを言っておいたじゃないですか。
―そういった意味で中島優子っていうのは消化のしやすいアーティストだったんですか?
渡辺 わいらもあんまり他の人と仕事してないからあれやけど、自分らのバンドに関しては、客観的には見れんし。でも他の数少ない仕事でいうと、難しい部類かも知れない。それはやっぱり彼女が若いからかな。
中島 若いからとは?
渡辺 若いからいうかな、わいも若かったら、ちょっとこういい感じで出来ると思うんやけど。渋好みでイカンな年寄りは。
中島 ハハハー。そうですかねー。でも、好みとかは合うと思うのね。私は'80年代のデュランデュランが大好きで、ずーと聴いてたんですけど、あんまり今まで会ったスタッフとかでデュランデュランって言うと、本当に通過していったアーティストだって方が多かったんで。
渡辺 わいらも3年前にデュランデュランとか言われてたらやめてくれい言ってたけど。
辻 彼女と違うところと言ったら、俺らは曲の1回バージョン録って、アレンジをしばらく聴いて気に入らんかったら、またやり直ししたりするのがあるけど、彼女の場合は、ある期間が決まってて、その枠の中でベストのものを作ろうとするのが難しいところなんじゃないの? まぁ、今回ほとんどのアレンジを善ちゃんが家で決めてきたから、俺はレコーディングのムードが楽しくなればええかなっと思うて、まぁヘタな冗談ひねり出して。
中島 もうね、それがすごく嬉しくて。
辻 だいたいムードが CDに出れば、楽しい感じでやった方がええかなと思って。でも彼女のキャラクターがいつも明るいからそれはすごくやりやすかった。
中島 初めはやっぱり、初めてやる方だったんで緊張してました。何しゃべっていいのかなって気まずいムードは3、4日はありましたけど…。
渡辺 気まずいムードなんてあった?
中島 私はけっこう人見知りしますからね。
辻 わいらはだいたい、レコード会社の人とか事務所の人とかが来たら緊張する(笑)。
中島 今回は、あんまり大きなスタジオでやらなかったので、それが自宅録音的で良かったですね。
―では、全体的にリラックスした雰囲気で終わったんですか?
辻 全体的にはリラックスしたと思う。
渡辺 エンジニアの高山さんも、すげー真面目で良い人やったしな。
辻 高山さんはすごいやりやすかった。わいら自身のレコーディングやっとっても、いろいろエンジニアに注文したりするのがめんどくさいタイプなんだけど、高山さんはいろんなこと試してくれて、やってくれるから。高山さんは中島さんサイドの仕事が出会わしてくれた人やから感謝してる。
中島 『こぼれたミルクに泣かないで』とかも、テイク5ぐらいまでTDあったよね。
辻 まぁ愛情のある人やから。
中島 やっぱり作ってる側としては、そういう人達に出会えたことがボーカルにも出るしね。私はこんな人達に囲まれて嬉しいなってね。
辻 じゃあ、次のレコーディングは格段に上手になってたりしてね(笑)。ハート/ソウルが込もるんだろうな。
中島 ハートが込もるってなかなか難しいんですけどね。でも私はいつもそういう風に歌ってるつもりなんですけどね。
一終わってみて、ああやっとけば良かったとかっていう部分はありますか?
渡辺 今回に関しては、あんまり無かったんじゃないかな。
辻 彼女が思ったより歌が上手かった人やから、周りが言うほどヘタやなかった(笑)。デモテープとかもまともだったし。それで本番で何回も録り直したりするのは、心の問題かなと思って。あとわりと曲を作ってから録音するまでが早いスパンだったので、自分で自分の曲にリラックスするっていう意味もあるんやけど。自分の身の回りのムードを自分で調整出来るようになったら、もっとええ感じに録れるだろうと思う。まあ、それは彼女自身が慣れてきたら出来ることやと思うけど。
中島優子『チェリオ』(1996年) |
―最後に今回のアルバムの聴きどころは?
渡辺 まあ全部が濃いというか。
中島 ミニアルバムだけど、1枚フルアルバムを聴いた感じになれると思うな。
辻 彼女の自由奔放なムードで作りたいっていう部分がけっこう出てるから、 そういうところを聴いてもらいたいね。前のCDとかけっこう固いなってイメージがあったからね。でも、もっともっとリラックスして録れたらもっと良かったと思う。
中島 詞の部分で言うと、前は自分で物語作ってやってた部分があったんですけど、今回 Oh! Penelopeに出会って自分のやりたいことが、もっと確信できるかなっていうところでリアルに詞も出来たし。まぁ前の詞よりも内向的な部分がけっこうあるけど、でもマイナスな意味じゃなくて、そんな詞の中の状況から抜け出したいなーっていうような意味で書いてたりもするので、そういうところも聴いてほしいですね。サウンド的にはすごく変わったけど、メロディー自体は前とそんな変わってないので、前からのファンの人達にも抵抗なく聴いてもらえると思います。いろいろ説明しても本当にこれは聴かないと分からないので聴いてください。
(中島優子 official fan club 会報 "Smile Power" Vol.5 掲載)
*Wさんより貴重な資料をご提供頂きました。感謝いたします。