その二日後、僕は青山のスパイラル・ガーデンでスウェーデン語通訳のユカリ(スウェーデン映画 『ショー・ミー・ラヴ』 を3度も見たという)と一緒に bice を待った。今度は1時間も早く来てしまい、時間を潰すために高い昼食をとり、ユカリは黒ビールを飲んだ。
bice が現れた。YAB-YUM の黒と白の服に身を包んだ彼女は最新アルバムと数枚のフライヤーやステッカーが入ったパッケージを僕に渡してくれ、会話が始まった。bice は本名を中島優子といい、年齢は非公表にしているということだった。
ピアノを5歳から始め、13歳の時にお年玉(日本では新年に子供たちがお金をもらう風習がある)を貯めたお金で初めてシンセサイザーを買ったというが、彼女の音楽人生で最も大きかった出来事は、19歳の時にマッキントッシュのコンピューターを手にしたことだ。それから彼女はマックを使って自作曲の録音ができるようになり、自身の声にも次第に慣れて行くにしたがい、自信をつけていったそうだ。
4年ほど前に彼女自身が納得できない作品をリリースしようとするレコード会社と上手く行かなくなり、何かが必要だと感じた彼女は、しばらくの活動停止の後、再始動しデビュー作の 『Spotty Syrup』 を別会社からリリースした。
bice は音楽的影響として、ボーズ・オブ・カナダ、スロウダイヴや80年代のニューウェーヴ、60年代のロックからプリファブ・スプラウト、ニュー・オーダーとジョイ・ディヴィジョンなどを挙げてくれた。僕がなぜ 「Love will tear us apart」 をカバーしたのかを尋ねると、彼女は「ただ彼らよりもっと良い演奏ができるかもしれないと思っただけなんです」と答えた。
デビュー・アルバムの発表後は、カジヒデキのツアーに参加したほか、今年4月に発売のセカンド・アルバムの完成までに、ミニ・アルバムなど作品を数枚リリースしている。最新アルバムは 『let love be your destiny』 というタイトルで、bice はその音楽を「ベッドルーム・アシッド・フォーク・ロック」と形容している。僕はこのアルバムの大部分が彼女の部屋でレコーディングされたというアイディアを気に入った。
将来的に bice は映画音楽を制作したいといい、それがノスタルジックでロマンティックな10代の青春映画の音楽なら幸せだと語ってくれた。それはしっくりきそうだ。
インタビューが終わり、コーヒーも飲み終えた僕らは写真撮影のため表へ出た。
bice は目の下に影が出来た写真が気に入らなかったので若干撮り直した。ユカリと bice が日本語で会話していたが僕は理解できた。僕が bice のことを可愛いと思っている、とユカリが bice に伝えたのでちょっと恥ずかしかったが bice は笑顔でお礼を言って、この後テニスをするために去っていった。
僕は帰宅して CD を聴いてみた。ブックレットの歌詞を読んで英語詞に幾つか間違いがあるのに気付いた。例えば
If I hear you shore
I would make you up
May be what she'd do
Is to look at you
Full of love
多分彼女はこう言いたかったと思われる。
If I hear you SNORE
I would WAKE YOU UP
MAYBE what she'd do
Is to look at you
Full of love
...といった具合だ。
でもこれほどまでに美しく音楽が響く時にそんなことが何の問題になるだろうか?
今回ご厚意により bice の写真と試聴用の音楽クリップを合わせて掲載したので、ぜひとも試聴する時間をとり、写真と共に楽しみ、恋に落ちてほしい。愛は音楽に根ざし、音楽は愛から創られるべきものなのだ。 (Jesper L.)