「すべての作曲とアレンジを小西康陽と共同で手がけ」 (Marquee Vol. 68)
「小西康陽プロデュースのもと、(中略) 小西の手による隙のないプロダクションが柔らかいウィスパー・ヴォイスと絶妙に融合し…」
(タワーレコード bounce 2008年8月号)
など、小西さんがプロデュースと音作り(作曲や編曲)を手がけたとライターの方が解釈していると思われるものすらありました。
bice がゲスト出演したラジオ番組でも、ユキタツヤさんが「小西さんがプロデュースで曲も書いてるのかなと思っていたが、聴いてみるといつもの小西さんの感じとは違うから(bice らしく聞こえるように)小西さんがかなり頑張ったのだろうと思った」という趣旨の発言をなさっています。
私はただの一般人なので直接目にする機会がなかったのですが、どうも日本コロムビアがメディア向けに配布した資料では、ミスリーディングするような書かれ方になっていたようですね。
レコード会社としては、できるだけ小西さんが音源制作に関わった(ように見せる)方が売りやすく、実際売れる、という読みがあったのでしょうか。アルバム・ジャケットのデザインと、数曲での曲名の提案を担当した、だけでは売りになりにくいというのも確かです。
bice がもう少し若くて歌手専業なら、"小西康陽が見出した第二の野本かりあ登場!" といった感じで売り出せてかえってレコード会社的には都合が良かったのかもしれません。
またライターや評論家の方々にも「売れない中堅女性アーティストが運よく小西さんに気に入られて readymade から出すのだから、小西さんがプロデュース(や編曲)をしないわけがない」というような思い込みももしかしたら若干あったのかなとも感じました。
いずれにしろ、商品として流通しているCDを持っていない業界人の方ほど、今も純粋な「小西康陽プロデュース作」と思い込んでいる可能性が高そうです。
bice はこの件に関していちいち反論するといった野暮なことはしていませんでしたが、("フレンチっぽい" と評される度に「私はそうでもないんですけどね」と返さずにはいられなかった彼女でしたが…笑)自身のブログで、
「日本のベニーシングス急募。もう、自分プロデュースはお腹いっぱいだよ」 (2010年3月21日付) https://web.archive.org/web/20131211030430/bice.jp/archives/category/blog/page/2
と冗談めかして書いていました。小西さんに最新アルバムのプロデュースをしてもらったという感覚があったら、こんな書き方は多分しなかっただろうと思います。
『かなえられない恋のために』 に収録されている全11曲のうち、7曲はリリースを目指して2005年頃までに編曲まで完成・レコーディングされ(当時英語詞のものも含む)、そのうちの数曲はライヴでも披露されていました。再録音にあたっても元の編曲を基本的にほぼ踏襲、もしくはその延長上にあるようです。
新曲4曲も含めアルバム用の曲はデモ段階でアレンジまで構築した状態であり、 軽口であろうとはいえ、小西さんに「このままでも出せるじゃないですか」と言われたと彼女自身が語っています。
これらのことからも、bice 以外の他者が楽器演奏やエンジニアリング以外の録音作業に介在したり、それを統括する立場に立つことは元々難しい状況でもあり、アルバムが最終的に bice のプロデュースだとクレジットされることになるのはむしろ自然な流れだったといえるでしょう。
『かなえられない恋のために』 は、これまで喧伝されてきた小西康陽プロデュース作というよりも、bice のセルフ・プロデュース作として扱う方がより妥当であろうと私には思われます。