bice ビタースイートな女の子
宅録は苦労したけど
とてもいいバイブが生まれました
TEXT: 三沢千晶
「本当にいいアルバムになったな」と本人も認める9ヵ月ぶりのアルバム『let love be your destiny』。それは自分の運命を愛してあげようとの想いを込めて。耳を澄ませばクールにきらめくbiceのアンニュイで切ない世界が見えてきます。
随分と雰囲気が変わった。昨年の7月1stアルバム『Nectar』をリリースした後、TVドラマのサウンドトラックやプレステ2『リモココロン』のBGMを手掛けたり、藤井隆、山下久美子、松下萌子への楽曲提供など、多彩な才能をあちらこちらで発揮してきたbiceは9ヵ月の間に、よりアーティスティックな顔つきになっていた。
「前作はかわいく純朴な世界だったんですけれど、全然それだけじゃないし、違う面もこの辺で見せておかないと後が辛いかなというのはありましたね」
というのは見た目だけのことではない。2ndアルバム『let love be your destiny』のことだ。前作と大きく違うのは、Pro-Toolsを駆使した宅録で制作されたことだろう。
「ミュージシャンの方に家にきてもらうために、ソファーとか買って部屋作りからまず始めました」と宅録にこだわったワケは?
「宅録はすごく苦労したんですけれど、ノイズが入ってデモっぽく聴こえるところがまたいいんですよね。そのおかげでとてもいいバイブが生まれました。家で何百回も聴いてるから1つ1つの音に愛着があるし、音を遊んだ分、歌は絶対に存在感のあるものにするために時間をかけて納得がいくまで歌えました。デジタルだけれど、すごくアナログなんですよ」
今回も作詞家・松本隆氏とのコンビで作り上げたシングル曲「Cloudy Sky」をはじめ、クールで開放感のある曲が出そろった。
「曲を並べたときにアンニュイだなって。ちょっと幸薄目の曲が多いと思うんですけれど…(笑)。実際の生活は温かいだけでなく愁いのある日々。そういうのって、みんなもきっとありますよね?」
また「私とポールの事」のポールとは、マッカートニーのこと。そんなふうにbiceの好きな音楽が垣間みられる作品にもなっている。
今作とはほぼ同時進行だったSUGIZOとのコラボレーションで生まれた「Rest in Peace & Fly Away」も興味深く、今後はカフェライヴなどのイベントにも数多く出る予定。
「そんなにライヴをやる予定じゃなかったのに、頼まれると断れない性分なんです(笑)。本当はいきなり武道館!っていうのをやりたかったんですよ。でもそれは無理だってことがわかったので…(笑)」
というお茶目なbice。野望に向かってひた走ってほしい。(イメージは、おっとりだけど・笑)
(weekly oricon 2002年4月29日号 Vol. 24, no.16 - 1144 掲載)