Pause 1998年5月号 bice インタビュー

2018年4月11日

1998 bice pause Spotty Syrup Under Flower アルバム アンダーフラワー インタビュー 出版物

4月11日は bice の誕生日ですね。『Spotty Syrup』 のアナログ盤の発売日も近づいてきましたので、今回は新星堂のフリーペーパー 『Pause』 から、発売当時の1998年のインタビュー記事をお届けします。(原則として元記事の表記のまま文字を起こしています)



イオンサプライのように身体に染み入る歌声です

頬に感じる風が暖かく感じ始め、くすぐるような空気に思わず鼻先をクンクンとしたくなるこの頃。心地よい春の空気にも似た歌声が先日僕の手元に届いた。それが今回紹介する bice (ビーチェ) だった。…… bice はキュートなウィスパーボイスが魅力的なフィメール・シンガーソングライター。しっとりと優しげに包み込む体内吸収率の高い歌声を聴かせてくれる。そんな彼女の体内リズムから発せられたメロディアスで適度にアンニュイ、そしてキューティーなボイスは、聞き返しているうちに多くの人の心に懐かしさと切なさを思い起こさせてくれるのだろう。優しさ含有率80%の春の空気のような、身体に優しい歌声を持つ女の子 bice。そんな彼女を今回は紹介していこうと思う。
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bice は元々ブレイクビーツやサンプラー等を使い、宅録的な曲を作っては MTR に録音する日々を送っていた。自宅内で作品を作っては録音していた彼女はある日、今までの作風とは違った自由な形で作品を作ってみたくなる。多くの宅録系のアーチストがその行き着いた先でカウンター的に欲するように、彼女も、いわゆる自然と耳に入ってくるような、手作り感覚で歌を聴かせるタイプの音楽に興味が移っていく。そこから彼女はアコースティックな感じのする作品を次々と聴き漁るようになっていく。

「 "他にもきっといいものがあるに違いない" なんて探しているうちに、ノーナリーヴスの作品と出会ったんです。その作品にショックを受けまして、"ここのレーベルで出したい!!" と思い立って、その頃作って録音したテープを社長の田中さんの所に送ったんですよ。そしたら気に入ってもらえて。なんでも声を気に入ってくれたみたいで。メロディを「イイね」って言われるのも嬉しいけど、私の肉声を「イイネ」とほめられるなんて、ちょっと感激でした」


発売できるかどうか約束も出来ないままに、とりあえずは事務所に遊びに行ってみようと思い付き、彼女は吉祥寺にあるアンダーフラワーの事務所を訪ねる。

「そこで田中社長を通して色々な音楽の話や興味のありそうなレコードを色々と聴かせてもらったんです。その度に、"ああ、こんな世界もあるんだな" って目覚めていって…。 "この人だったら私の声を上手く引き出して、イイ作品を作ってくれそうだな" と思い、ダメモトでプロデュースをお願いしてみたんです。そしたら二つ返事で OK していただいて。そこからは今までの宅録してはストックしていた曲を全て捨てて、新たな気持ちで曲を作り始めたんです。作っているうちに曲のストックもたまってきたんで、作品として出してみようって事になったんです」

とりあえず、彼女は家で新たに作った曲達を持ってスタジオに入る。そこで彼女はサウンド面でも洗礼を受ける事となる。

「今回はメロディーと歌を聞かせてみようという事で、私が家で打ち込んできたものからドンドン音を引いていったんですよ。私も基本的にはアコースティックなものが好きなんですけど、性格的に音を作品に入れたがるタイプだったんですよ。そこを今回はグッとこらえて(笑)

……歌ってメロディーを伝える方法なので、その為にもオケの音は少なければ少ない程私の声には良いみたいで。私って基本的にウィスパーボイスで歌ってるんで、音が厚いと声の微妙な所が打ち消されちゃうんです。最初は普通の声で歌っていたんですけど、それじゃ優しさや細かいニュアンスというものが伝えられない。気分というか雰囲気というか…元々、自分の家で宅録していた時も大きな声が出せないということもあったんで、自然とウィスパーになってたんですよ(笑)。

以前はしっかりとした声を出して歌ったりもしたんですけど、自分の中で、"何か違うな"と思い始めて…ウィスパーボイスにしてみたらシックリきたんです。私が作る歌は自分が歌いやすいように自然に作ってしまっているに違いないって事で納得出来ました。元々バシッと何かを明確に伝えたいというよりは、雰囲気や感じといったものや気分を歌にしたいという方が強かったんで、丁度良かったと思います」
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彼女の歌う世界は抽象的だ。例えば彼と一緒にいる時に2人の周りを包んでいる幸せの湯気のようなぼやけたイメージの事をミルクフィルムと称して歌にしてみたり。恋愛と突然の雨を引っかけて一つの歌にしてみたり…それらは、日記のような、映画の一場面のような…それらはなんだか彼女の声と合っているような気がして面白い。

「今回は英詞が多いので、ストレートにいろいろ書きましたね。私は鼻歌のような感じで歌を作っていて、日本語の詞は、言葉は自然と耳障りのよいもの、メロディーに乗せ易いものを選んでいるようなんです」

それに加え、今作にはビージーズのカバー曲 「How deep is your love」 も収録している。これがシンプルなアコースティック・タッチのサウンドに彼女のウィスパーボイスが乗って、まさに bice ならではのカバーアレンジに仕上がっている。

「これはズッと前から大好きな曲だったんですけど、カバーをするなんて恐れ多いとズッと思ってたんです。でも今回 "どうせ演るんなら好きな曲を演ったら?" とのアドバイスをもらって、勇気を持って封印を解いてみました。ビージーズだとコーラスが分厚い感じだけど、私の場合はいたってシンプルにいたって女の子らしく出来たんじゃないかなと思っています」

そういえば彼女は何故 bice と名乗っているのだろう?

「元々 "チェ" とか CHE の発音の付く言葉の響きが好きだったんですよ。bice は言葉自体では何か特別な意味を持っている訳じゃないんです。私の大好きなイタリアの女の子の名前でビアトリーチェという女の子がいて、その子の愛称が bice だったんで、そこから借用しました。つづりが bice なんで、よく初めての人には "バイス" なんて間違って読まれる事もあるんですよ(笑)。ビーチェですから」

そう、ビーチェ。彼女はビーチェなのだ。絶対に覚えておこう。

■3月26日 東京・吉祥寺 / アンダーフラワー・オフィスにて (取材・文 池田"スカオ"和宏)  
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当ブログも開設してから早いもので1年になりました。
ソーシャルメディア等で一時的にわっと人々が飛びついて情報が使い捨てにされるよりも、そういった喧騒からは少し離れた場所で、情報をしっかりと集積してゆくことを第一の目標として、これからも少しずつ更新できればと思います。

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