Barfout! Vol. 156 bice インタビュー (2008年)

2019年6月30日

2008 Barfout! bice アルバム インタビュー かなえられない恋のために

私の微々たる力でもこの子が ちょっとでも幸せになればって思って


『かなえられない恋のために』……そんな恋もあるよと、ほろ苦い味を知った大人の女性になろうとしている女の子のための切ないタイトルのアルバムをリリースしたのは、憂いを帯びたウィスパー・ヴォイスで、メロウ&ロマンティックな楽曲を歌うシンガー・ソングライター、bice。

『let love be your destiny』(02 年)のアルバムの後、彼女自身の作品を心待ちにしていたファンも多いだろう。

今作で 〈コロムビア*レディメイド〉の レーベル・プロデューサーの小西康陽も大絶賛!の名作を完成させた bice は、私たちの期待を上回るセンスが光る。彼女らしいセンチメンタルさと優しさでもって、私たちの心に沁み込んで、痛みを取ってくれて、そして、また恋をする楽しみを教えてくれるんだ。




barf   いつぐらいから制作を始められたんですか?

bice   制作は 02 年に出したアルバムの後から、そ の勢いで、書いた曲もあるんですよね。そこからいろんなお仕事の話をいただいたりする中で、書き溜めておいた曲の中から、この 11 曲を選んだという感じですね。


barf    タイトル『かなえられない恋のために』は、曲が決まってから考えられたんですか?

bice   そうですね、タイトル考えてって言われてから。まぁちょっとかなえられない恋もあるんだなという事件が起きまして(笑)。何があったわけじゃないんですけど。


barf   プライヴェートでは、今年ご結婚されてて……おめでとうございます!でも今作は、10代からいろんなことを経験して、すぐ成功するとか、叶うっていうことばかりじゃないっていうことを味わって……そういうことを経てのタイトルであったり、歌詞かな?と思いまして。すごい共感する部分がたくさんあって、沁みました。

bice   そうですね。10代、20 代と色々あって、とにかく 02 年にアルバムを出してから、もう本当にいろんな恋をして。仕事でいろんな出会いもあったし、恋愛と結婚は違うんだなっていうこととか、 色々考えさせられることがあって。とにかくいつもときめいていたいタイプなんですよ、bice さんは(笑)。それでこのタイトルになったんです。薄っぺらく聞こえちゃうかもしれないですけど。


barf   なるほど! 1曲目の「レッドバルーン」からグッと掴まれました。ギターのカッティングやタップの足音がポップで。なんと言ってもサビの 〈愛を愛を愛を 昼も夜も捧げ〉 の部分が好きです!

bice   サビのところは、すごい悩みましたね。でもここはちょっと熱く行っとこうと。始めは全然違う英語のフレーズだったんですけど。私、ずっと洋楽ばかり聴いてて、歌詞を聴かなかったんですよね。 でも、今回は、日本語の歌詞で。日本人の歌手にちょっと興味が出てきたっていうのもあって。


barf   日本人のアーティストだとどなたがお好きなんですか?

bice   私、前回のアルバムを出した後に、引っ越しを何度もしたんですね。それで狭い部屋に住んだことがあって、音楽を聴かなくちゃリラックスできないというか、癒されないっていう時期があって。その時によく聴いてたのが Polaris の 『Family』だったかな。そこから始まって、今は安室奈美恵さん一筋なんですけど(笑)。だから今回 「100 年後にふたりはいない」とか、ちょっと今まで bice になかったテンポ感だったり、そういう曲が入ってるんだと思うんですけど。


barf   そうなんですね。2曲目の「lily on the hill」は、 『うたとギター。ピアノ。ことば』 (小西康陽プロデュースのコンピ) にも収録された曲で。歌詞がめちゃくちゃ切ないですよね。

bice   私としては、一押しの曲で。これはやっぱり夏にフラれて(笑)。どうやって忘れていこうかなっていう想いを抱きながら、書いた感じです。


barf  〈スローモーションでしか消えてはいかない〉 っていうフレーズとか、すごく頷けます。

bice   ありきたりなんですけど。でも本当にそのフラれた時に、何が悪かったのか、全然分からなかったんですよ。自慢じゃないんですけど、私その時初めて失恋というものを経験して。失恋ってこんなに人間否定されちゃうのかって。何も対抗する言葉も出なくて。それで本当に街の中歩けなくなるくらい落ちて(笑)っていう実話があっての歌詞ですね。


barf   〈anyday anytime 恋を刻んだね〉  って自分としてはいつも恋していたっていう。ところで歌詞と曲はいつもどちらからできるんですか?

bice   断然曲ですね。歌詞はいつももがきながら。でもこの曲に関しては、わりとすぐに出てきましたね。一番最後の 〈大好きだった…胸の片隅に〉 っていうのが肝かな。


barf    「100年後にはふたりはいない」という曲は、大人の恋のイメージで。サウンド的には、シンセ・キーボードが入ったダンサンブルなアレンジですね。

bice   これはちょっとエッチな歌ですね (笑)。刹那的な恋の歌です。この曲のアレンジは結構悩んだかな。アレンジにはいつも結構時間を掛けますね。
 

barf   全てご自身でやられてるから、すごいなって。

bice   もうやりたくないな、みたいな (笑)。誰かに 頼めたらいいんですけど、絶対私、文句を言っちゃうんですよね。だったら自分でやった方がいいって思って。細かいカッティングをここに入れるとか。そんなに難しいことやってないんですけど。 こだわりとポップさの狭間をすごい考えて、やってます。聴いてもらうために作ってるって思ってるから、自分の世界を守り抜こう!とは今回は思いませんでしたね。だからポップなものができたんだと思うし。


barf  「100年後にふたりはいない」もそうですけど、 「スプラッシュ」でも、今回 〈天国〉 とか 〈地獄〉 とかっ ていうキーワードが多いなって。

bice   うん、今回多いよね!


barf   でも最終的には 〈祈りは叶うもの 誰だって自由なのさ〉 って。

bice   何か心の中でストップをかけなくていいん じゃないかなって思う年頃になってきたんですよ。 あんまり考え過ぎても良くないから。いい結果は生まれないし。だから、〈もっと知り合いたいの〉 って、結構積極的な女の子になってみようよっていうメッセージが込められています。


barf   最後の「cine love 4」も、〈抱きしめたいのよ あなたの瞳の奥に 映るもの 全て〉 って、包み込んでくれるような曲で。

bice   そうですね。これは男の子でも女の子でも守ってあげたいなっていう曲です。私の微々たる力でもこの子がちょっとでも幸せになればって思って、歌詞はそういう風に書いた感じですね。




barf   どうですか、今回アルバム1枚でき上がって。
 
bice  まぁ今回のアルバムは、まず小西さんに感謝ですよね。02 年にアルバムを出した後も、フリーで色々お仕事をやっていて、でも不安とかもあって。そんな時、小西さんからお会いしたいって言ってくださって。それがなかったら、私は世の中で bice として、歌うこともなかったかも。でもそうやって見ていて下さる人はいるもんだなと、本当に涙が出てきそうですねぇ。


barf   小西さんはアルバムについて何て?

bice  「いいよぉー!」って言ってくださって。いつも褒めてくださるので、自信がなくなっていくんです (笑)。もうできませんから、みたいな感じで。 褒められ過ぎて、まいっている状態です。あと bice、ブランド立ち上げるんですよ!洋服が好き過ぎて(笑)。デザインを書いてます。 〈eme〉 っていうブランド名で。ホームページにアップしていくので、チェックしてみて下さい! もちろん 音楽が第一優先ですよ。

(6月18日/六本木にて)  TEXT: 古宮亜由美

(Barfout! vol. 156  2008年8月号掲載)

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