今回は FM STATION no.1 1997年1月5日号 (1996年12月5日発売) の巻末に掲載の、中島優子時代のエッセイ 「サンタを困らせないように早く寝ていた8歳のころ」 を文字起こしでご紹介します。彼女の3枚の推薦盤も出てきますのでお楽しみ下さい。
サンタを困らせないように早く寝ていた8歳のころ 中島優子(シンガー)
気がつけば、もう今年もあと少しじゃないの。
XMasのネオン、そして高島屋のサンタが笑っていたりすると、「去年のクリスマスは何をしていたかなぁ」なんて思い返すのよね。
去年は……そうそう、レコーディングも終わり近くになり、スタッフにケーキを焼いて持って行ったんだ(スポンジケーキが2センチぐらいしかふくらまなくて、ほとんどクリームケーキだったけど)。あれからもう1年たつのかぁ。
街はいまクリスマス一色って感じだけど(一時よりは地味かも)、この季節になると、10歳ぐらいまでのクリスマスを思い出すの。あの不思議で宇宙的なイヴを。そう、私はサンタクロースの存在を信じていたの。たとえば8歳のころは、サンタを困らせないようにイヴの日は早く寝る努力をする。で、浅~い眠りの次の朝、目を開けるのがもったいなくて、妹と一緒に「せーのっ」で目を開けて、どきどきしながらプレゼントを見る。♯♭付きのハーモニカと、なぜか、おばあちゃんの家の近くのお菓子屋さんのおかし。「おかしすぎる」と思って、おばあちゃんに聞いたの。そしたら、「サンタさんは、おばあちゃんが寝ていると起こしにきて、届けものを一緒にチェックしてから優子のところへ行ったんだよ」っていうわけ。「そんなにノンビリ配達していて、サンタさんはいったい何人いるんだろう」って、ちょっと悩んだりして。おばあちゃんに「サンタの声を録音しておいてね」って頼んだら、次の年、サンタの「これ持っていきますよ」の「ますよ」だけ録音したっていうじゃないの。で、私は10歳まで友達にそれを力説していたという…。
あのころ、世界は不思議だらけだったのにネ。
サンタさんの正体が私にバレたのは、10歳のころ、お父さんがお正月に、「フルートあげたんだけど、ちょっとがんばっちゃったなぁ」っていってるのを、ドア越しに聞いてしまったからなの。それから2~3年の間、クリスマスはつらかったなぁ。あのころのクリスマスの感覚を、もう体験できないと思うと、悲しくなるよね。
それからのクリスマスの過ごし方が、どうなったかというと、クリスマス映画を観るの。とくにお気に入りは人形劇&アニメで、最近では『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』かな(ホントは、小さいころ観てた人形劇の映画がいちばんのお気に入りなんだけど、タイトルが思い出せなくて。くやしい!)あとは、気のおけない女友達と朝まで毛布にくるまって、あったかい部屋でしゃべり明かすの。その日、女同士で集まることで、なんか独特な友情が生まれたりしてね(べつに寂しいわけじゃないよ)。もちろん街を歩くのも好きだけど、ふと現実を感じてしまったりして、ちょっと切ないときもあるの。心の状態で、風景って変わってくるんだよね。
まー、私はこんなふうだけど、日本中あげてひとつのことで盛り上がるコトってあまりないから、クリスマスってすごいよね。たとえば、半年前からクリスマスの計画を立てちゃう人もいるらしいし、それを口実に(というか、その力を借りて)ふだんできないこともできちゃったり…。本来の意義とは違っていて、キリストさまには申し訳ないけど、より多くの人がコミュニケーションできたり、楽しい気分を共有できたりするのってステキだよネ。
中島優子 Happy Xmas (Love is all over) |
で、私も今回、愛はどこにでもあるよっていう曲「Happy Xmas (Love is all over)」を書いてみたんだよね(ぜひ聴いてみて)。
今回は、この寒い時期に聴きたいアルバム3枚を選んでみました。
SPOOKEY RUBEN - MODES OF TRANSPORTATION VOL. 1 |
まずは、思わずスキップしたくなるヨーデルふうな曲も入ってヘンな感じのアーチスト、スプーキー・ルーベンの『モード・オブ・トランスポーテーションVol. 1』。男のコのロマンチックなところが隠れてる音です。
The Millennium - Begin |
それから私の大、大、大好きなミレニウムの『ビギン』。なかでも「語りつくして」は心洗われる曲なの。これを聴けば、いい夢見られること間違いなし!!
Everything But The Girl – Love Not Money |
そして最後は、エヴリシング・バット・ザ・ガールの『Love not money』。ちょっと渋いPOP感が、少し寒い肩を抱いてくれる感じでいいかもしれない。
今年のクリスマスは久びさに「サンタがきてくれるんじゃないかしら」って、どこかで思ったりしてるんだよね、24歳の女(のコ)としては。
それではみなさま、よいクリスマスを、そしてよいお年をお迎えください。
(FM STATION no.1 1997年1月5日号掲載)
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推薦盤の3枚は、後の bice の活動にそのまま繋がってゆくような音楽趣味を窺わせる興味深いセレクトですね。
子供の頃のエピソードは微笑ましいですね。クロマチック・ハーモニカやフルートがクリスマス・プレゼントというあたり、早くから音楽に夢中だった様子とご両親の愛情が伝わってきます。
文中に出てくる「小さいころ観てた人形劇の映画」は、恐らく1979年公開で数年前リメイクもされた、サンリオ映画の 『くるみ割り人形』 ではないかな?と思いましたが、どうでしょうか?